一読して難解、二読して誤解、三読して不可解
Aさんの父親が亡くなり、Aさんは相続税の申告をしなければならなくなった。税理士に相続税の申告を頼むとお金がかかる。
Aさんは定年退職し、時間はいくらでもある。暇つぶしにもなるし、自分で相続税の申告書を書こうと思い立った。税務署からもらって来た「相続税の申告の手引き」を熟読し、インターネットでも情報収集して勉強を始めた。
インターネットでは情報はあふれるばかりだ。一つひとつプリントアウトしたら山のようになった。しかし、読めば読むほど分からなくなって、税務署に足を運んだ。税務署の担当官もはじめのうちは親切で、根気よく教えてくれていた。しかし何度も通ううちに面倒になったのか「もう、来るな」と敬遠されるようになった。
そうこうしているうちに時間は経ち、Aさんの兄弟たちはイライラし始めた。「いつになったら遺産分けの話を始めるのか?」と。
素人がよくはまるパターンだ。Aさんの一番大事な仕事は遺産分けをまとめること。それにさえ集中すれば後は専門家に任せればよい。余計なことにかかずらわっているから肝心の遺産分けまでもおかしくなる。
いくら「相続税の申告の手引き」を熟読してもダメだ。歯が立たないと思う。そもそも用語の定義が分からないので読めば読むほど分からなくなる。税法を勉強するときに言われることがある。「税法は一読して難解、二読して誤解、三読して不可解」という言葉。まさにそのとおり!
私は最近、コロナ自粛で時間があるので税法の復習を始めた。それでつくづく思う。「税法は難しい、とんでもないところに首を突っ込んでしまった」と。
「素人が申告書作成に挑戦してもムリだよ」と、今までは余裕シャクシャクであったが、税理士でもそうは言っておれない状況になって来た。相続税に専業特化していても難しい。これが所得税・法人税・消費税まで守備範囲を広げたらお手上げだ。
相続が起きたら今どき事前にネットで情報収集しない人は稀である。そこで相続税の申告は自分でもなんとかなるのではないかと勘違いする人がでてくる。
実はそういう人が途中であきらめて放り投げた案件を任せてもらうのが「いちばんおいしい仕事」となる。「ああ、そういうことだったのですか、わたし誤解してました。さすがプロですね~」と喜んでくれるし、9割程度まで申告書は出来上がっている。だから完成までの手間が省けて楽チンなのだ。もちろんそういうときは申告報酬は値引きをするけどね。