断食と健康

「断食と健康」

「先生、今度のセミナーでは健康の話をしていただけませんか?」最近、こういう講演依頼を受けることが多くなった。

 私は税理士なので、いくらなんでも健康セミナーの講師をやるほど厚かましくはない。丁重にお断りしているが、なぜこういう依頼が多くなっているかというと、私の断食経験を聞きたいらしい。それと人生、下り坂になってくると健康のことが気になるようになってくる。税金の話はどうでもよいから断食と健康の関係の話をしてくれ、ということになる。が、しかし、私は健康目的ではなく興味本位で断食を始めた。あるいは無理矢理こじつけるとすれば税務署と戦うための「根性づくり」で始めたといってもよい。健康のために始めたわけではない。

 私はここ数年、4月から5月にかけてゴールデンウィークの休みをはさみ、一ヶ月ほど断食道場に籠る。それを5年間続けている。一ヶ月も仕事を休むのだ。その間、私は一度も事務所と連絡をとることはない。それでも何の支障もなく仕事は廻っていく。それが私の自慢の一つだ。本当は健康のことより、必要なときに必要なだけ自分の自由な時間が取れることが私にとっては自慢なのだ(単にヒマなだけじゃないかという人もいるが)。

 私が断食をするきっかけになったのは山田鷹夫著「人は食べなくても生きられる」という本を読んでからだ。トンデモ本で賛否両極端に別れる本だが私は刺激を受けた。さっそく断食道場に申し込み、最初から3週間の断食にトライした(体質改善のためには最低3週間の断食期間は必要らしい)。結果的にはこれが正解であった。プチ断食のような中途半端はダメだ。やるなら命がけでやらねばならない。

 断食初心者で多いのが3日から4、5日程度の断食の“とりあえず断食”だ(連続して休みが取れない人がほとんどなので仕方がないけれど)。が、しかし、これくらいの日数の断食は苦しい思いだけが残り、もう二度と断食なんかするもんか。と逆効果になる可能性がある。断食を始めて4、5日目くらいがいちばんつらい時期だ。ここを乗り切ると手のひらを返したように体調が良くなる。内臓を休ませることで体の芯から爽快になっていく気分は何とも言えない。不安も恐怖もない。食べなくても生きていけるという気分になるのだ。植物みたいに「水と空気と光だけで生きていける」と本気で思えるようになる。そのうち体が緑色になって光合成を始めるのではないかと思ったりもする(あははは)。それくらい人間の体はしぶとくできているということだ。

 「食べなくても生きていける」という自信は人生を変える。倒産しようが刑務所にぶち込まれようが、そんなことは、へっちゃらみたいな気分になれるのだ。税務署との喧嘩も望むところだ。とても自由な気分になれる。食べるために自分の気に入らない仕事をいやいや引き受けるようなこともしない。「君ぃ、それじゃぁ、食べていけないだろう」と言葉を投げかけられても「オレは食べなくても生きていけるのだよ、むはははは」と笑い飛ばせる。どんな状況になっても俺は生きていける、とマイペースに徹することができる。これがいちばんの収穫だ。間違いなく根性とゆとりは身に付く。

 しかし、断食をやってみて思ったのは根性とゆとりが身に付くだけではなく健康もになれるのだ。私は断食を経験した後は劇的に健康状態が良くなった。まさに図らずも健康になったということだ。私はヘビースモーカーで死ぬまでタバコをやめられないと諦めていたが、断食後は禁断症状もなく、すんなりとタバコをやめることができた。健康面ではこれがいちばん効果があったと思う。体重は5年間で15kg減量に成功した。最高血圧は200を軽く超える重症の高血圧症だったが、今では120程度に改善した。

 私の家系はみな短命で、親戚連中で50歳まで生きた者はいない。私も50歳までに死ぬものと思い込んでおり、なかばやけくその人生を過ごしてきた。マイホームを持つことに人生の大事なエネルギーを注ぐなどバカバカしくて考えたこともないし、貯金もしたことはない。うちのカミさんのためにかろうじて生命保険にだけは入っていたが……。つまり、老後のことを考えたことがないのだ。だから、いま生きていることが想定外の状況なのである。

 体が軽くなり健康に自信が持てるようになってジョギングをするようになった。30年間の税理士生活で精神的ストレスがたまり、運動不足にもなっていた。50メートルも走れば足がもつれ、息が切れるという情けない状態だったが、しばらく走っているうちに調子に乗り、走る距離が延びた。そうこうするうちにフルマラソンにも出場した。こうして人生初のフルマラソンを走ったのは還暦を過ぎてからだった。その後、ホノルルマラソン、東京マラソンなどフルマラソンは4回完走した。私は今年で64歳になるが、まだまだ走るつもりだ。

 話をもとに戻すが、断食は食べないことで健康になるというより、断食のあと、少食に徹する生活習慣を身に付けることが秘訣なのである。そのために断食道場に籠るのだ。食べないだけなら自宅でもできるが断食のあとの回復食の期間が重要だ。断食のあとドカ食いしては元も子もない。健康の秘訣は少食に徹することだ。私はここ数年、朝食を摂らない。その方が調子が良い。諸君は肉体労働者でもあるまいし、一日に三回もメシを食うなど食い過ぎである。断食は食を断つことより少食の生活習慣を身につけることが目的なのだ。健康になるのは簡単だ。「少食と運動」。ただこれだけなのだから。簡単なことだ。

 健康になったおかげで私が掛けていた生命保険はすべて保証期間が過ぎてしまい、私が死んでも降りてくる保険金はない(40歳代で死ぬと思っていたので保証期間を短く設定していたのだ)。さらにマイホームを持っていないので借家の家賃を払わねばならぬ。さらにさらに国民年金だけでは生活できない。うちのカミさんからは「お父さんが死んだら、わたし、どうやって家賃を払っていくの?」と言われておるのだよ(とほほほ)。「だったら、一緒に死のう」と返事するしかない。自分は短命だと思い込み、やけくその人生を歩んでいたので、健康になった老後の人生を描いたことがなかったので戸惑っている今日この頃なのだ。こんな私だから健康セミナーの講師などできるわけがないではないか。

投稿者: ihanamura

花村一生:昭和23年生、福岡県出身 さまざまな職業を遍歴後、昭和58年税理士として開業 花村会計事務所所長 法人の顧問を中心に開業したが、会計業務が性分に合わず、数年で 手を引く(生来のずぼらから会計業務は行わないにもかかわらず、 会計事務所の看板はそのままになっている) その後、相続税申告と不動産税務に専門特化して今日にいたる。 特に不動産の時価と評価額の矛盾に憤りを持っており、相続税の物納について 異常ともいえる情熱を燃やしている。一時は物納申請件数は日本トップクラス。 主に土地持ち資産家の相続案件を得意とする。 国土交通省外部団体の「都市農地活用支援センター」のアドバイザーとなっている。 納税者のために考え行動することがモットー。税務署と闘うことも辞さない。 著書:新日本法規出版「社会生活六法」税金分野担当

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