遺産分割協議のやり直しと贈与税
遺産分割協議はいつまでに決めなければいけないという期限はない。これに対して、相続税の申告と納付の期限は相続から10カ月以内と決められている。
そのせいもあってか、相続が起きると相続税のことばかりが気になって、遺産分けのことが後回しになる傾向がある。
しかし相続で大事なのは、「遺産分け」
がスムーズに決まるかどうかである。相続税はその後の問題だ。
そのためにも税理士は財産目録を早めに作り、相続人たちに遺産分けの参考になるよう、提示しておくことが肝心だ。
「早くしないと申告期限までに間に合わない」と慌てて遺産分割協議書に印鑑を押してしまい、あとでじっくり考えてみたら、「こりゃ、あかんわ、やり直し!」などと訂正したくなることも考えられる。
そんなとき税務上はどうなるかだ。
いったん、有効に遺産分割協議が成立し、それを分割のやり直しとして再配分した場合には、その財産は遺産分割以外の原因(交換・贈与)により取得したものとして取り扱われる(相基通19の2-8但書)。てことは譲渡税や贈与税の課税の問題が生じるということだ。
慎重に遺産分けをしておれば、払わなくてもよい税金を払わされてしまうのだ。
「遺産分けは慎重に」はとても大事なことだが、遠方に住んでいる相続人との意思疎通に手間取ったり、コロナ禍で話し合う機会が少なかったりと、財産の内容を把握するだけでも相当の時間が必要だ。
だから充分に検討をする時間もなく印鑑を押してしまうことも珍しくはない。
遺産分割のやり直しとなると、我々税理士からすると、税金の問題が生じてしまう心配をする。余計な税金は払ってもらいたくない、という気持ちは税理士は骨の髄まで持っている。
「遺産分割のやり直しは贈与・交換等の課税の問題が生じますよ」というのが税理士の常識なのだ。
しかし、ここで知っておきたいのは課税実務はどうなっているかだ。
課税実務では、相続税の申告期限までに遺産分割をやり直して、申告するのであればセーフ!申告書を出した後でも申告期限内であれば「再提出」という形で提出をしてもセーフ!と取り扱っているようである。ただし、その遺産分割のやり直しも一回限りならということだが。
だから失敗しても相続税の申告期限までに気がついて訂正すればOK。申告書を提出後、それも申告期限後なら課税される。
なお、税務署員に「お願い!助けて!」とすがりついて泣き叫ぶ方法もあるにはある。税理士は恥ずかしくてできないが、一般の納税者ならそれが功を奏することがある(保証はできないが。)