書面添付の申告ってなあに?
税金の申告をしたらホッとして気分がスッキリするかというと、そうでもない。お客さんが心配するのは、その申告に対して税務調査はあるのだろうか?ということだ。まじめに申告をしても税金のルールが複雑すぎて、完全無欠な申告は難しい。まじめに申告したつもりでも間違いが見つかることは大いにある。
そうなると本税を追徴されるだけでなく、加算税や延滞税まで取られてしまう。
そこで税務申告に書面添付制度というものがある。税理士法第33条の2に規定する書面を添付すると、原則、税務署の調査が省略されるという制度だ。
「この申告は税理士の私が徹底的に調べました。だから税務調査をしないでください」という意思表示。税理士の太鼓判、それを添付して申告するのがこの制度。
「おお~、いいじゃないか、そんな制度があるなら、うちも頼むよ」お客さんはそう言うに決まっている。
税務調査がなければお客さんの精神的な負担も軽くなるし、税理士も調査立会の手間も省ける。ありがたいことだ。
ということで、私も書面添付制度を活用しようと、この制度を活用している税理士さんの研修会に参加した。
結果は、がっかりした。まるで税務署の下請けじゃないか。具体的なことを書くとキリがないが、いかに徹底的に調べたかを書面に残しておくことが税理士の仕事になる。
例えば預貯金の動きを過去10年間遡って受け払い記録をチェックしていくのはもちろん、お客さんの言ったことをそのまま信用するのではなく、その裏付けを取っておくことだ。
ユダヤ人大虐殺の収容所でユダヤ人からもっとも恐れられ、嫌われたのはナチスの監視員ではない。おなじユダヤ人でありながらナチスからユダヤ人の監視を任せられた「カポー」という人たち。「カポー」はナチスの監視員からサボっていると見られたら、即、ガス室行きだ。ウカウカしてはいられない。
わたしは熱心に書面添付制度を活用して「私はここまで徹底的に調査して申告書を作っている」と自慢げに話す税理士さんをみて「カポー」と思ったよ。
お客さんの敵は税務署だけでなく税理士も敵になる。はっきり言ってベテランの税理士が本気を出せば税務署員より優秀だ。税務署員にあって税理士にないもの、それは国家権力だ(これって決定的だけどね)
書面添付の申告書を提出したのに、その中身がボロボロだったら税理士の責任が問われる。あだや疎かに書面添付の申告などできない。
そのうち「この申告についてはすべて税法の規定に準拠して処理してある」との意味のない文言を記載して、体裁だけ整える税理士も現れるだろう。
そんなことなら、お客さんの話をまず信用する。そして税務上の問題が生じたら税務署と闘う。それでいいじゃないか。
おまえは、いったい誰の味方だ!税理士もこう言われたらおしまいだ。