「強気申告」と「弱気申告」
税金の申告は税法に基づいて申告するのだから誰が計算しても同じ税額になるはず、なのだが、実はそうでもない。
どのように解釈すればよいのか迷う事例はいくらでもある。
典型的なのは配偶者名義の預金だ。
Aさんが亡くなった。Aさんの妻Bさん名義の預金が数千万円あった。BさんはAさんと結婚する前後も会社勤めなどしたことがない、Bさんの親から財産を相続したこともない。こんなとき税務署はBさん名義の預金は誰のものとみるのだろう。いわゆる妻のヘソクリ問題だ。
Bさんは「この預金は私のもの!」と言うに決まっている。家族に、もしものことがあったとき、勤め先が倒産して職を失ったとき、病気になったとき等々。なんせ、三、四十年、生活費を節約して、コツコツ家族のために貯めてきたのだ。Bさんは良妻賢母の鏡のようなひとだったのだ。もちろん税金をごまかすような気持ちはない。
この場合、税務署はBさんの預金ではなく、亡くなったAさんの財産とみる。「え~っ!そんなバカな!」B さんの悲鳴が聞こえる。
生活費の余りはBさんの名義で預金されていたことはA さんは承知の上だ。
亡くなったAさんは暗黙のうちに贈与していたことになり、AからBへの贈与は成立していると私なら理解する。
ところがどっこいこれが裁判では通らないのだ。公の場で争えば負ける。
こんなとき、税理士はどのように申告するか。それについて「強気申告」と「弱気申告」がある。
「強気申告」は税務署はBさんの預金であることを否認して相続税を追徴してくるかもしれないが、そこを敢えて頑張ろうとする申告だ。脱税ではない。見解の相違だ。もし、調査の現場で税務署員が納得すればこちらの主張が通る。気合と根性でこちらの主張が通ることがある(こういうことがあるから実務は面白い)。
「弱気申告」は闘ってもどうせ負けるのだから最初から白旗を掲げて、Aさんの相続財産として申告する。そうすると相続税の本税の追徴もないし、加算税や延滞税を納める必要もない(いわゆる“おとなの申告”)だ。その代わりBさんの不満は頂点に達してはいるが。
そういうなかでも一番みっともないのが、当初「弱気申告」をしておいて、その後、更正の請求(当初の判断が間違っていたので後から税金を返してくれという手続き)をすることだ。
しかし、これはまず通らない。当初の申告が間違っていたかを立証しなければならないのは納税者だからだ。
当初申告でBさんの預金と判断した申告をひっくり返すには税務署が立証しなければならない。そして税金を追徴するにはその理由を付記しなければならない。税務署はこの理由付記を嫌がるのだ。私は若い頃は強気申告一辺倒だった。税金の世界に限らず「ノー・トライ・ノー・チャンス」だ。たとえ、強気申告で負けたとしても「ナイス・トライ!」と納税者は税理士を褒めてやるべきだ。そうしないと弱気な税理士ばかりになってしまう。