相続税の申告をする場合、参考になる資料として過去の所得税の確定申告書の控えを見せてもらうことになる。
アパート経営をしている人の所得税の確定申告書の控えを見ると職業欄が「無職」となっている人が少なからず居る。このこと一つ取っても、この人はアパート経営に無関心だったということが分かる。
「無職はないでしょ、無職は」「不動産貸付業」とか「アパート経営」とか、何か書くことがあるんじゃないの」と言いたくなるが、大した問題でもないので何も言わない。ご本人(すでに亡くなっておられる)は何も気にされておられなかったみたいだ。
「アパート貸付けは事業経営」という感覚はお持ちではなかったのだろう。言われるがままにアパートを建て、建物の維持管理も入退去の管理もすべて管理会社に丸投げ。
「オーナーさんは何も考えず、入金口座の通帳を見ているだけでいいんです」などと管理会社の人に言われ、本当にそのとおり通帳を見ているだけの人だったみたいだ。運良く、アパートは満室状態が続き、借入金もすでに完済。
毎年の確定申告はタダで農協に丸投げ。経営感覚ゼロでも、アパートは順調にまわり、無事、長男へ引き継がれる。ここで問題の長男だが、これがまた親父さんに輪をかけてぼぉ~っとしている人だった。他の家族の方々も似たようなもので、一家揃ってぼぉ~っとされていた。
「親父さん名義の預貯金はどのくらいありましたか」と聞いても「さぁ~、分かりません。本当に何も知らないんです」というばかりで、さっぱり要領を得ない。が、しかし、こういう人と付き合っていると癒される。そして「なんとかしてあげねば」という気分になる。
こういう人だからこそ、担当の農協の職員さんが親身に動いてくれた。
貯金も共済も出資金の資料もすべて農協一本だったので、「あっ」という間に資料は揃い、「あっ」という間に遺産分割協議は整い、「あっ」という間に相続税申告は終わった。まさに、「あっ、あっ、あっ」だったのだ。
世間の人は、「アパート経営も事業、よく勉強してかからねばいけんよ」などと言うが、何も考えず、ぼぉ~っと生きている人たち」もけっこう多い。
ぼぉ~っと生きている人が失敗しているかというとそうでもない。運のいい人は、おおむね死ぬまで運がいい。運だけで生きてる人の方が多いくらいだ。
うまくいく人の人生は詰まるところ、その人の努力というより、いい人に巡り合うかどうかだけなのかも知れない。
相続税申告で私に巡り合う人は、とても運がいい人だ(むはははは)