法人化というプラシーボ効果
小麦粉を固めて錠剤のようにして「これ、最近開発された新薬だけど試してみませんか?あなたの症状にはぴったりです」と医者から勧められて飲んだ薬が思いのほか効いた気分になったりすることを「プラシーボ(偽薬)効果」という。私は「個人の法人成り」のことを節税している気分だけの「法人化のプラシーボ効果」と思っている。儲かるのはそれを勧めた税理士だけだ。
「あなた、アパートを三つも持っているのなら法人にすればいいのに、節税になりますよ」とそそのかされて、法人化したAさん。
Aさんは「どうだ!オレは社長だ!最新のスキームで節税対策をやっておるのだ!」と自慢げに名刺交換をする。名刺を見た相手は「うん?合同会社?代表社員?なんだ社員か、俺はてっきりお前が社長になったものだとばかり思っていたよ。それに合同会社ってなんなんだ?」となる。その都度説明するのもめんどくさい。
土地持ち資産家が不動産賃貸事業を法人化して、悦に入っている姿をよく見かける。「それにしても、なんでわざわざ合同会社にするんだろ」「合名会社の間違いではないのか?(※)」などなど。(※)相続税の節税対策で「合名会社スキーム」というのが以前からある。まともな税理士は勧めないけどね。
こうして「ひとひねり」するからややこしくなる。私はこういう大した効果もないのに「ひとひねり」することが大嫌いだ。「ややこしいことするな!シンプルに行け!」と喉元まで出かかった言葉を飲み込む。あえてツッコミを入れるような野暮はマネはしない。本人がハッピーならそれでよいのだから。
合同会社というのは制度が導入される当時、話題になった。アメリカのLLCの制度をマネして法人税を課税しないという「パススルー課税」が導入されるかもしれない、と当時注目された。しかし、結局、パススルー課税は見送られ、誰も注目しなくなった。株式会社設立と比べると初期費用がわずかばかり安くなるだけ。税金の世界から見れば、すでに見捨てられ、話題にもならなかったスキーム。最近の言葉で言えば「オワコン(終わったコンテンツ)」なのだ。
それでも本人がハッピーなら私がとやかく言うことはない「勝手にやっとれ」。