誰が借金を相続するの?
甲さんは預貯金1億円と借金1億円を残して亡くなった。
甲さんの相続人は二人。長男のAさんと次男のBさん。長男は跡取り息子で真面目な公務員。次男は放蕩息子、独身で無職のプー太郎。
純財産額はプラス・マイナス、ゼロ。だから相続税はかからない。しかし、相続税はかからなくても遺産分けはしなければならない。この場合、預貯金1億円と借金1億円はどう分けるか。
長男は「俺が預貯金1億円を相続する。借金はおまえ(次男)が相続しろ。どうせおまえは借金なんか返せないんだから、自己破産しろ。そしたら俺が後の、お前の面倒をみてやる」
次男「分かった。どうせ俺はプー太郎。自己破産しても痛くも痒くもない。その代わり、後の俺の生活の面倒は見てくれよ」
こうして遺産分けが決まった。これって、どう思いますか?
計画的な借金の踏み倒しじゃないか。そのとおり!
こんなことが通るわけがない。これが通れば金融機関は金を貸さなくなる。
借金は「分割債務」として当然分割。驚くなかれ、遺産分けの対象ではない。遺産分けするしないにかかわらず、長男・次男がそれぞれ1/2ずつ当然に相続することとされている。(民法427条:分割債権及び分割債務)
そうは言っても金融機関は次男が相続した借金の5000万円を取り漏れてしまう可能性がある。だから生前に甲さんが借金をするときには、土地を担保に取るなり、相続人である長男を連帯保証人に指定しておくわけだ。
借金の返済が滞っても、土地を担保として取っておれば土地を差し押さえることができるし、連帯保証人を指定しておれば、長男は逃げも隠れもできない。
というわけで借金の相続については金融機関と取り決めをすることになる。
預貯金1億円を相続した長男が借金1億円のすべての返済義務を負い、次男は返済義務を免れる取り決めをすることを「免責的債務引き受け」という。または長男次男が各5000万円ずつの返済義務を残したまま、新たに長男との間で1億円の返済義務を課す「併存的債務引き受け」とがある。いずれも金融機関との間の契約となる。
借金をすると相続税が安くなると気楽に借金をする人がいるが、借金の相続は甘いものではない。